花小路文学賞

2014年、初開催の花小路文学賞でしたが、人情物、恋愛物、サスペンス等々・・・様々なジャンルで、県内のみならず全国から92作品ものご応募がありました。
920日に審査会が行われ、下記の作品が各賞に決定いたしましたので発表いたします。
 

タイトル 作者(筆名) 年齢 住所
 最優秀賞  夏の終わりに  五十嵐優樹 24歳 山形市
 優秀賞  まちがいでんわ  藤原たどんど 67歳 山形市
 優秀賞  あの町は今もそこで  橋本葵 13歳 山形市
 審査員特別賞  花小路の神様  難波 45歳 仙台市
 審査員特別賞  ラストソング  亜沙明れい 50歳 山形市
 花小路振興会特別賞  蛍月(ほたるづき)  斎藤隆 59歳 山形市

※タイトルをクリックすることで、作品を読むことができます。

 


 

選評



 

黒木あるじ
 花小路には、山形で暮らした者しか嗅ぎとれない独特のにおい がある。かつて栄華を極めた花街の残滓なのか、それとも今もあ の小路で生き続ける人々の体臭なのか、それはよくわからない。ただ、そのにおいにつられて我々は足を運び、酒を煽って酔いつ ぶれ、そのたび花小路が好きになっていく。そんな気がする。今 回拝読させていただいた作品群からは、残念ながらあの「におい」は嗅ぎとれなかった。みな、どこか澄ましたところがあって小綺麗に飾られていて陰がない。昼ひなか、赤提灯がともる前の花小路といった案配である。とはいえ小説としてはどれもなかなかの力作であった。めでたく各賞が決まった事実を見れば、私の言葉にも頷いていただけるのではあるまいか。 第二回があるならば、次はぜひ私の好きな「陰のある花小路」を読んでみたい。文学と山形の酒場に精通した諸先輩方をさしおいて審査員の末席を汚した身として、ささやかに願う次第である。
黒木あるじ
小説家。一九七六年、青森県生まれ。二〇〇九年、「ささやき」で第一回『幽』 怪談実話コンテスト・ブンまわし賞を受賞。著書に『震』、『痕』、『怪談実話 無惨百物語 ゆるさない』、『怪談実話 無惨百物語にがさない』、『FKB怪談実話 累』などがある。
山川健一
 応募作の質の高さに驚かされた。また、作風のバリエーション、応募者の年齢層の幅の広さにも注目しなければならないだろう。最優秀賞「夏の終わりに」の五十嵐優樹氏は、現代文学の構造をよく理解されているのだなという印象で候補作品の中で突出していた。藤原たどんど氏の「まちがいでんわ」と橋本葵さんの「あの町は今もそこで」はあまりにも対照的で甲乙つけ難く、二作共に優秀賞ということに落ち着いた。その他の特別賞も個性派揃いで、どれも読み応えがあった。
 今回の賞は「花小路」を素材の一部に組み込むという前提があったこともあり、山形の地域性に溢れた作品群が集まり、いわば山形文学の誕生に立ち会う喜びがあった。意味深い企画であったと思う。
山川健一
小説家。東北芸術工科大学芸術学部 文芸学科学科長、教授。藝術学舎出版局編集長。一九五三年七月一九日生まれ。千葉市出身。一九七七年『鏡の中のガラスの船』で「群像」新人賞優秀作受賞。以後、ロック世代の旗手として次々に作品を刊行。著書は一〇〇冊を超える。長編小説に『ロックス』、『水晶の夜』、『安息の地』、『ニュースキャスター』など。作家論に
『太宰治の女たち』など。
玉井建也
 花小路を舞台にした作品を多くの人が描くだけで、これほどまでに多様性があふれ出してくるのは、花小路という場所の魅力に依拠するところが非常に大きい。しかし、ほとんどの作品が花小路の良い面のみを捉え、描き出そうとしていた点は非常に残念である。人間の営みにより街、そして社会が形成されることは、耳触りの良い面だけが浮上してくるのではなく、負の側面にも繋がるはずである。そしてこれは根源的には人間造形にもつながる。
綺麗な人間が綺麗な感情のみを抱き、温もり豊かな街が描き出される、というのは極めて人工的とは言えないだろうか。とはいえ、今回、受賞された方々は短い規定分量の中で苦労・苦心されたことが審査員としても分かる力作のみである。物語を紡ぐ楽しさと大変さを失わずに、次回作に取り組んでいただきたい。次は審査員ではなく、一読者として紙面で会えるのを楽しみにしていることを、ここに記しておく。
玉井建也
一九七九年七月七日愛媛県出身。歴史学・エンターテイメント文化研究。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。東京大学大学院情報学環特任研究員などを経て、現在、東北芸術工科大学芸術学部文芸学科講師。日本デジタルゲーム学会第四回若手奨励賞、日本風俗史学会第一七回研究奨励賞受賞。
たくさんのご応募本当にありがとうございました。
心より御礼申し上げます。